映画レビュー:マダムベルコ

映画と読書が好きです。主に映画の感想や考察を書いています。「いい物はいい」が信条。

【カセットテープ・ダイアリーズ】僕の未来は、捨てたもんじゃない

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一言あらすじ:ブルース・スプリングスティーンに救われました。

[作品情報]
原題:Blinded by the Light
監督:グリンダ・チャーダ
原作:サルフラズ・マンズール『Greetings from Bury Park : Race, Religion and Rock N’ Roll』
製作年:2019年
製作国:イギリス
出演:ヴィヴェイク・カルラ,クルヴィンダー・ギール,ミーラ・ガナトラ,ネル・ウィリアムズ,アーロン・ファグラ,ディーン=チャールズ・チャップマンほか


主人公のジャベドがソニーのウォークマンで音楽を聴いてるところからしてもう懐かしさで胸いっぱい。
イマドキの若い子はカセットテープなんて知らないだろうな。テープが弛んで「あーもう!」とか言いながら鉛筆突っ込んで弛みを直してたとか、手書きのラベルはダサいからと転写シート買ってきて一文字一文字ズレないようにゴシゴシやってたとか、想像もつかんだろ。
ま、なにしろあの時代は楽しかったよな。なあ、昭和世代よ!!


というわけで、1987年のイギリスはルートンという地方都市が映画の舞台です。
ジャベドの両親はパキスタン系の移民です。彼自身はイギリス生まれだけれど周囲はイギリス人と見てくれず、友達はごく僅か。

外を歩けばパキと呼び捨てからかわれ、家では超保守的な父親が独裁者のごとく振る舞い、工場をクビになったからと母親の内職代やジャベドのアルバイト代を全部取ってしまう。なんだこのクソッタレな俺の境遇。

おとなしいジャベドは叫んだり暴れたりはしないけれど、心の奥底のマグマはふつふつと静かに煮えたぎっている。そしてその思いを詩に書いています。  

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© BIF Bruce Limited 2019

で、そんな苦境からジャベドを救い出してくれるのが、数少ない友達のループスに勧められたブルース・スプリングスティーンのカセットなんですね。

自分の心の中の鬱積した思いや叫びをストレートな言葉で歌ってくれているスプリングスティーンに、ジャベドは速攻でどハマりします。それと同時に閉ざされていた心も次第に開かれていく。


前髪を上げてみたりシャツの袖を切ったりしてアメリカンな外見にチャレンジするジャベドが何とも可愛い。

先生に文才をほめられたり彼女ができたり新聞社でバイトさせてもらえたりと良いことが続きますが、周囲の差別は相変わらずだし、ジャベドの変化を好まない父親との関係はよけい悪くなるばかり。
ついにはアメリカの大学に行くという形でジャベドは家を出ることになります。


でも僕には夢がある。そして僕を支えてくれるブルース・スプリングスティーンの歌がある。

何だか絵に描いたような青春がんばるぞ系ストーリーみたいですが、辛いとき苦しいときに音楽に救われた経験のある人は少なからずいると思います。
救われたとはいかないまでも、自分と同じような気持ちや悩み苦しみを歌で代弁してくれる人がいるというのはとても心強い。

たとえ夢が叶わずとも、思うように事態が好転しなかったとしても、人生の一時期に一瞬でも楽しいもの・幸せに思えるものに出会ったなら、それは非常に素晴らしいことだと思うのですよね。

そういう意味で本作はとてもハッピーな気持ちにさせてくれる良い映画です。とりわけ若い子たちに観てほしい。

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この映画の原作はイギリスで活躍するパキスタン系ジャーナリストの自伝なんですが、エンドロールでご本人と親友(劇中でブルース・スプリングスティーンを勧めてくれたループス)の楽しそうな写真が映し出されて微笑ましく思いました。


正直なところわたし自身はブルース・スプリングスティーンの歌が好きでも嫌いでもない(つまり聴かない)のですが、コロナ禍でも能天気だったトランプ前大統領に「マスクしろやこのクソが」とSNSで言い放ったのなんか、おじいちゃんになっても相変わらず反骨ロックの人だなと感心したのは余談です。